日本で急増してきているアトピー性疾患などを含むアレルギーですが、じつはこれらの病気は腸内フローラが悪化することで引き起こしやすいと言われています。そしてこの乱れた腸内フローラを改善することで、免疫力の向上や、いろいろなアレルギー疾患の症状を改善できると言われています。
では腸内フローラを悪化させる要因とはどのようなものなのでしょうか。そしてどのようなことに留意すれば腸内フローラを改善することができるのでしょうか。
免疫システムを左右すると言われる腸内フローラ、免疫と腸内フローラにはどんな関係が存在するのかをご紹介していきましょう。
目次
アレルギーの原因は腸に問題があった!?腸管免疫システムとアレルギーの関係
腸には私たちの健康をまもる免疫が集中していると言われています。果たして、腸内フローラの良し悪しがどれほど免疫・アレルギーに関係するものなのでしょうか。
免疫は腸が主役。腸管免疫システムとは
人間の免疫のじつに70%が腸にあると言われており、「腸管免疫」とも呼ばれています。免疫の大部分が腸にあるということから腸内環境が免疫を維持・向上するうえで重要であることは間違いないと言えるでしょう。
腸の内面には腸管のリンパ球や免疫系細胞がたくさん存在しています。私たちが日常生活を送るうえでもっとも菌が侵入してくるのが口からであり、口から侵入した菌が最終的に到達するのは腸管であり、腸内がもっとも菌の攻撃にさらされることになります。
菌の攻撃に真っ先に、そして直接さらされるからこそ、腸管免疫が人の体を守る主要な免疫機能となっているのです。
つまり、腸の免疫は腸管それ自体だけではなく全身の免疫機能も担っているわけですね。
免疫バランスとアレルギーについて
アレルギーは免疫バランスの崩れとよく言われますが、それはどのようなことを指すのでしょうか。
【免疫には複数の細胞が関わる】
私たちの体内や身の周りには有益な腸内細菌もいれば、侵入してくると害になるインフルエンザウイルスや細菌などもたくさんあります。そして免疫とは有益なものは攻撃せずに、有害なものにだけ攻撃して排除しようとするものを言います。
有害細菌などを攻撃する免疫も複数あります。
白血球の種類であるキラーT細胞やマクロファージ、NK細胞などのリンパ球などもありますし、各免疫細胞に攻撃を命じる働きをするヘルパーT細胞もあります。
また腸内細菌の善玉菌それ自体も免疫となります。しかし、これら免疫細胞や腸内細菌の数の変化・バランスが崩れることで免疫力が低下して風邪をひきやすくなったり、アレルギーや自己免疫疾患の原因となることが様々な研究から明らかになっています。
【ヘルパーT細胞について】
前項で少し触れましたが、ヘルパーT細胞には他の免疫細胞にさまざまな指示を出す役割があります。ヘルパーT細胞にもTh1とTh2の2種類があります。
Th1は免疫防御の主役となる存在で、最も多く生産される抗体です。
Th2は消化管内での感染を防ぐ役割もありますが、さまざまなアレルギーにも関与しており、とくにアレルギー物質が入り込むと数分程度で症状が出てくる「即時型アレルギー反応」を起こします。
このように2つの型に分かれるヘルパーT細胞ですが、普段はTh1とTh2はお互いのバランスが均衡になるようにコントロールしあっています。
【Th1とTh2のバランスが崩れるとアレルギーの原因に】
普段はお互いにバランスを取り合っている2つのヘルパーT細胞ですが、生活環境の変化などがあるとその2つのバランスが悪くなりTh2が優位になってしまうことがあります。
Th2が優位になると、普段は反応しない花粉のようなアレルギー物質に対しても反応してしまい、アレルギー症状が出てしまいます。
このバランスをコントロールするのが腸内細菌です。Th1を優位にしようとする腸内細菌を増やすことでTh2が優位になるのを予防し、アレルギーの発症を抑制することができます。
【自律神経のバランスもアレルギーに影響が】
上記のヘルパーT細胞のバランスの崩れとは別に、自律神経の乱れもアレルギーには大きく関与しています。
自律神経は交感神経と副交感神経の2種類があるのはみなさんもご存知でしょう。肉体的なストレスや精神的なストレスを抱えすぎると交感神経が優位となり、逆に緊張が緩んでリラックスした状態だと、副交感神経が優位に働きます。
交感神経が長時間優位に働いていると血管が収縮して血流がわるくなり新陳代謝が低下してしまいます。そうなると腸の血液の流れも悪くなり免疫バランスが悪くなります。
一方、副交感神経が優位に働き続けると血管が緩みすぎて血液の循環が悪くなります。そうなるともちろん腸の血流も悪くなり、腸内環境がみだれて免疫バランスも悪化します。また、副交感神経優位ではリンパ球の生産が亢進してしまいます。リンパ球が増えすぎてしまっても、普段反応しないような物質に過剰に反応してアレルギーの発症の原因となります。
免疫バランスを保ってアレルギーを予防するには、交感神経も副交感神経もバランスよく刺激されることが必要なのですね。
腸内フローラが乱れると免疫システムが悪くなる?
私たち日本人の腸は昔からの低脂肪で食物繊維が多い食事に適応した腸内環境なのですが、現代では食事内容の急速な変化や、生活習慣の変化によるストレス、睡眠不足などにより腸内環境に乱れを生じやすくなっていると言われています。
その結果、善玉菌が減少して悪玉菌が増加し、日和見菌も悪玉菌となってしまい、腸内細菌のバランスが大きく崩れてしまいます。
腸内細菌のバランスが悪くなることは、前述したように腸内の免疫細胞がうまく働かなくなるので、有害物質やウイルスを感知できなくなったり、無害なものを誤認して攻撃するなどの異常がでてしまうのです。
こうして免疫力が低下してしまうため、潰瘍性大腸炎やアレルギーを引き起こしてしまう可能性が大きくなるわけです。
また女性であれば、免疫力の低下によって膣カンジダを引き起こす可能性があります。膣カンジダと腸内フローラとの関係は下記記事にて紹介しているので、ご覧ください。
腸内フローラバランスの乱れと私たちの生活習慣。
腸内フローラが乱れると、病気やアレルギーの原因となることがわかりました。では、腸内フローラが乱れる要因となるものはどのようなことがあるのでしょうか。
腸内フローラが悪くなる要因
①毎日の食生活
悪玉菌は動物性の脂質やたんぱく質を好みます。
そのため肉中心やファストフードなどの食事ばかりになると、善玉菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖、乳酸菌やビフィズス菌を摂取できませんから、おのずと悪玉菌の繁殖が優位となり善玉菌は減少します。
こうなると日和見菌も悪玉菌として増加するので、腸内では悪玉菌のつくる酵素により硫化水素やアンモニアインドール、アミンなどの毒素やガスで満たされます。この状況では、免疫力の低下を起こし、さらにアレルギーを発症しやすくなってしまいます。
上記の肉中心の食事以外にも、調理済みの加工食品には化学調味料や合成保存料・着色料・乳化剤などが使用されており、それらも腸内細菌に悪影響を与えかねません。
②薬、抗生剤などの影響
風邪などをひいて病院に行くと処方される薬に抗生剤があります。抗生剤は細菌感染などの改善に用いられる薬ですが、これらが腸内細菌も攻撃することがあります。抗生剤にも特定の菌やウイルスにしか効果がないものならまだ良いのですが、広範囲の細菌に効果を表すものがあります。抗生物質の投与により下痢をすることがありますが、その際にはビオフェルミンなどが処方される事があります。このように抗生剤の投与が腸内フローラの悪化の原因のひとつとなります。
腸内フローラに関する知識不足
自分の腸内フローラはどんな状態だろう?と考えたことはありますか・・・
【健康の増進=腸内フローラ改善】
「健康な身体作り」と意識したことはあっても、「健康の増進=腸内フローラを整える」と考えたことのある人はほとんどいないのではないでしょうか。もし腸内フローラが私たちの健康の増進・免疫力向上に重要な役割を担っていると知っていれば、普段から腸内フローラを整えようとするでしょう。
しかしながら、しっかりとした腸内フローラの知識や、腸内フローラを良い状態にすることが健康の礎となるという知識がなければ、『腸の状態を整えなければならない』という意識は生まれてはこないでしょう。
【大便は大きな便り】
昔は健康状態を把握するひとつの方法として便の状態を見ていました。「大便」とは健康状態を示す「大きな便り」なのです。今では便を観察して健康状態を考える人もほとんどいないでしょう。今一度、ウンチが体から送られる貴重なサインと思って、大便観察を見直してみましょう。
【食後は消化器官に血液が集中】
消化酵素の分泌により食物の消化・吸収の機能が働きますが、充分に消化酵素を分泌させるには消化器官に血液を集中させることでより効率的になります。
もし食後すぐから運動を始めると血液は消化器官よりも筋肉などに多く運ばれるため消化・吸収を妨げます。食後は暫し胃を休ませて、腸のために消化を助けてあげましょう。
【腸にも血液が必要】
腸にもたくさんの毛細血管や神経が走行しています。精神的・肉体的なストレスを受けることで交感神経が優位となり、腸の血管は収縮して腸などの消化器官の血液の循環がわるくなります。これらは腸の活動を低下させますし、神経の働きが不充分となり下痢や便秘、また潰瘍性大腸炎の原因となり腸内フローラを悪化させる要因となります。
良い精神状態を保つことは、腸にも十分な血液を送ってあげられるわけですね。
ここに挙げたのは一例ですが、腸内フローラに関する知識をつけて日常生活を過ごすことで、腸内フローラを悪化させずに済むかもしれません。
腸内フローラを悪くするその他の生活習慣
その他、睡眠不足によりストレスが解消されなかったり、毎日の仕事での過労、緊張が持続することで自律神経の働きが悪くなります。
自律神経は私たちの意志ではコントロールできない心臓や内臓などの働きを司っています。自律神経の働きが悪くなると胃腸の動きや消化液・内分泌液の分泌も悪くなり消化吸収が不良となる事で腸内フローラの環境にも悪影響が出てしまいます。また運動不足でも腸内フローラが悪化することがあります。
胃は私たちの運動に関係なく働きますが、腸は私たちが運動をすることで動きが良くなり、運動をしなければ動きが弱くなります。腸の動きが悪くなれば便が腸内に停滞する時間が長くなり便秘となり、便の腐敗が進んでこれも悪玉菌が優位となる原因になります。
腸内フローラを整えて免疫力向上、アレルギーの改善を図るためにしたいコト
腸内フローラを悪化させる要因もわかりました。それでは、免疫力向上やアレルギー・アトピー性疾患の改善をするために、それらの要因をどのように排除・改善していったらよいでしょうか……4つの項目に分けてチェックしていきましょう。
1)食習慣を改善する
前述したように、加工食品などに含まれる合成着色料などの有害な物質を摂取しないように心掛けることはもちろんですね。しっかりと押さえておきたいことは、私達日本人の腸内環境は低脂肪で食物繊維の多い和食中心の食事の環境に合うように出来ています。
脂肪分はもちろん必要なので、腸内環境の改善ができる植物性の脂肪や魚などからのオメガ3脂肪酸の摂取を心がけましょう。
また不溶性食物繊維を摂取することで腸の動きが改善でき、水溶性食物繊維は善玉菌のエサにもなるのでどちらもバランスよく意識して摂取したいものです。
和食が勧められる理由はほかにもあります。納豆や漬物といった発酵食品には乳酸菌など善玉菌や、善玉菌のエサになるものがあります。
もうひとつ、善玉菌のエサとなるオリゴ糖を摂るようにしていきましょう。砂糖をオリゴ糖に置き換えたり、バナナなどオリゴ糖を含む果物などを務めて摂るようにしたいですね。和食中心の食事を心がけ、善玉菌のエサとなる食物繊維・オリゴ糖・乳酸菌類も摂取するようして善玉菌を育て腸内フローラを改善しつつ、免疫力をあげていきましょう。
2)運動の習慣をつくる
【腸蠕動運動+運動習慣】
腸は自律神経の働きにより、蠕動運動という小さな動きをすることができ、腸の内容物を押し進めて排便として出そうとする働きをします。しかし自律神経による蠕動運動だけでは充分に腸が動くことが出来ずに便秘になることがあります。便秘になると悪玉菌が増加して腸内フローラが悪化します。それを予防するのが運動です。
運動をすることで、腸の蠕動運動が活発になり腸の内容物の流れをスムーズにすることができます。
【腸の動きを助ける運動にはどんなものがある?】
腸の動きを改善するには交感神経を刺激するような激しい運動ではなく、ウォーキングやヨガ、ストレッチなどの有酸素運動で副交感神経を刺激する方が効果的です。
交感神経は簡単に言うと身体を興奮させる神経なので心臓や筋肉の動きを高め、消化器官の動きはわるくなります。副交感神経は身体・精神をリラックスさせて緊張をほぐして消化器官の働きを促進します。
腸内フローラを活性化させるための体操である腸内フローラ活性体操や美容体操であったり便秘解消体操という名前でも紹介されています。ひとつ腸内フローラ活性体操の内容を参考として載せておきます。
腸内フローラ活性体操 胆汁活性運動:URL: https://youtu.be/9mQRdgOoEiQ
これは運動というよりもマッサージやストレッチに近く、リラクゼーション効果もありそうな内容です。手で腹部をマッサージすることで胆汁の分泌を促して消化を助ける効果と、腸に動きをつくって便通も改善し、腸内フローラを改善できるような内容ですので、一度試されてみてはいかがでしょう。
3)食習慣の改善に加え、サプリメントも利用する
食習慣を改善することで食物繊維やオメガ3脂肪酸などを摂取することは比較的可能ですが、オリゴ糖や乳酸菌などを効率よく摂取することは難しいものです。
とくに乳酸菌はその種類もさまざまで、種類によっては免疫力の向上はもちろん、インフルエンザの予防効果が期待できるもの、さらには花粉症やアトピーなどアレルギー症状の改善を期待できるものがあります。
これらの乳酸菌を効率よく摂取するなら、サプリメントが有効です。
ただ、腸内フローラの構成は人それぞれ、つまり誰にでも合うような乳酸菌というものはなく、自分のお腹の相性とよい乳酸菌を探す必要があります。
自分に適した乳酸菌を見つけるのには同じサプリメントを少なくとも2週間、できれば1ヵ月以上続けることが望ましいです。もし飲み続けてみて下痢を繰り返したり便秘になったり便秘が改善し無いようであれば、そのサプリメントに含まれる乳酸菌は適していないと判断して別のサプリメント・乳酸菌を試してみましょう。
もし、アレルギーの改善に有効と謳われていないサプリメントであっても、腸内環境が整うことでアレルギー症状の改善を期待することができます。
花粉症と腸内フローラの関係については下記記事にて詳しく紹介しています。合わせてご覧ください。
4)その他
衛生的にしすぎない
アレルギーやアトピーと腸内フローラの関係について、日本医学会シンポジウムにおいて慶発表された研究があります。
その研究によると日本などの先進国では「アレルギー・アトピー性疾患を発症することが多くなってきているが、それは乳児期から小児期の期間に病原性物質にさらされなくなったことが原因であるという説がある。」と言っています。
衛生環境が良くなりすぎたために病原菌が侵入しにくくなり、免疫細胞が働く機会が減少することで免疫細胞が正常に活動できなくなるというのです。
出典:アレルギー・アトピー性疾患――[ III ]アレルギー性疾患の治療の将来展望 2.腸管粘膜免疫とアレルギーの制御 慶應義塾大学 教授 石川博通
神経質になりすぎない
腸内フローラの改善はすぐにできるものではありません。「なかなか改善しない」とあまり考えすぎると精神的ストレスとなり腸内フローラを悪化させる要因となってしまいます。腸内フロ-ラの改善には期間がかかることを理解して念頭に置いておきましょう。
腸内フローラを整えようとすることがストレスとなって、逆に悪化させてしまうのでは本末転倒です。リラックスしてマイペースに状況を把握できるようになりましょう。必ずあなたにピッタリの乳酸菌が見つかって免疫力も向上し、アレルギー・アトピーの改善につながるはずです。
まとめ
免疫力と腸内フローラの関係や花粉症や、アトピー症状などのアレルギーの関係について少しでも理解をしていただけたでしょうか。
腸には免疫の大部分が集中しており、腸内フローラや免疫力を向上させることでアレルギー症状も改善できることがわかりました。腸内フローラを悪化させる要因が解ればそれを予防しながら改善を図っていくことが可能になります。
ぜひ皆さんも今一度腸内フローラと健康、免疫、アレルギーの関係に関心をもっていただき、腸内フローラから免疫力を向上させ花粉症・アトピーなどのアレルギーを改善していきましょう。